約 1,207,291 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/165.html
気付いたら美希の顔がすぐそばにあった。 ラブが委員の仕事で遅くなるからと、一人で下校する途中、偶然、美希と逢った。 しばらく立ち話をしていたが、近くだからと誘われ、美希の部屋に寄ることになった。 今まで美希と会うときはいつも4人だった。 初めて2人きりで話して、なんだか新鮮だとせつなは思った。 美希は、せつなの学校での話、家での話、せつなにとって新しくて驚いた出来事、 美希にとっては当たり前でつまらなそうな話もうんうんと楽しそうに聞いてくれた。 「それでね、ラブがね…」 「ラブったらね…」 それまでせつなの目を見て相槌を打ってくれていた美希がふいに目をそらしてぽつりと言った。 「せつなは本当にラブのことが好きなのね」 「えっ??えぇ、そうね。大好き。美希だってラブやブッキーが大好きでしょ?」 美希は俯いたまま返事をしない。 「ど、どしたの、美希…?何かあった?」 せつなは心配になって美希の顔を覗きこんだ。 次の瞬間、美希がせつなの手を握って真剣な顔で言った。 「好きよ、ラブもブッキーも。大好きな友達。でも…あたしはせつなが好き」 美希の手に力がこもる。 「友達としてじゃなくて、好き」 そして、気付いたら美希の顔がすぐそばにあった。 せつなは抵抗しなかった。ただ驚いていた。 知ってる。テレビで見たことある。これはキスだ。 テレビでは、男の人と女の人がしていたけど、女の子同士でするのは普通なの? 美希の唇はあたたかくて、首筋からはアロマの香りがした。 美希が唇を動かす度に小さな水音がして、その音を聞く度にせつなは体の中が疼くような気がした。 耳元で美希が囁いた。 「キス、したことある?」 せつなは首を振った。 「嫌…だった?」 せつなはまた首を振った。 「よくわからないけど、美希から良い香りがして、ドキドキした」 不安げだった美希は驚いたように目を開き、その後すぐに妖艶な目つきになった。 「気持ちよかった?」 せつなは恥ずかしそうに頷いた。 「そう…、じゃあもっと気持ちよくしてあげるわ」 そう言って再びせつなの唇を覆った。 美希は容赦なくせつなの口内を侵した。溢れた唾液が唇の端から流れる。 それを美希の舌がすくいとってせつなの唇へ戻す。 しんとした部屋の中で、息遣いだけが響く。 口付けたまま、美希の右手はせつなの制服のボタンを一つずつ外していく。 やがて、下着に包まれた白い胸元があらわになった。美希はすばやい手つきでホックを外す。 「みっ、美希…!」 「なぁに?」 「あたしたち、な、なにするの?」 せつなが焦ったように手で胸を押さえて聞いた。 「大丈夫よ、キス、気持ちよかったんでしょ?もっといいことしましょ」 「でっでも…!」 美希はせつなの胸を下から揉みあげる。 「あんっ」 思わず声を上げて、せつなは驚いたように口を手で押さえた。 「これは?」 美希は硬くなったせつなの胸の先端を唇で咥え、舌で小刻みに刺激する。 もう片方の先端を指先で執拗に弾く。 「ぁ、ぁあっ、んっ、あっだ…めぇ…」 「ダメじゃないでしょ、もっとって言ってごらん?」 美希は刺激を続ける。 「ゃ…ゃぁ…んっあぁ、らめぇ…」 胸元をまさぐっていた右手は、いつのまにか下方へ移動していた。 スカートに滑り込ませる。下着のすきまに指を挿し込む。 そこは十分に潤っていた。膝を曲げさせ、脱がされた下着はせつなの左足にだらしなくひっかかっていた。 「すごい濡れてるわよ、せつな?どうして?」 せつなの敏感な突起を探り当てた美希は、それを指先で撫で上げながら耳元で囁く。 くちゅっ、くちゅっ…いやらしい音が響く。 「あっ、ぁあ…!美希っみきっやめて…」 美希はせつなを後ろから抱き、膝を抱えるようにして、壁際にある全身鏡に向かって両足を開かせる。 「せつな、見て。せつなのココ、キレイね。たくさん濡れてるの、わかる?」 そう囁くとまた、蛇口が壊れたようにせつなの中から溢れてきた。 せつなは喘ぐだけで精一杯だった。 「はずかしいの?」 せつなは泣きそうな目で頷いた。 「いいのよ、はずかしい方が、その分気持ちよくなれるから。」 美希はせつなの中へ指を挿れ入れを繰り返す。 ちゅ…くちゅ…くちゅ…規則正しい音とせつなの喘ぎが繰り返される。 「ほら、ちゃんと鏡見て。あたしの指こんなに奥まで入ってるのよ。せつなはエッチな子ね」 「気持ちいい?」 「ゃあっんん…ぁっ」 「気持ちいいなら、気持ちいいって言わないと、もっといじめちゃうわよ」 「んっ、ぃもちぃ…きもちぃいっ」 「よく言えたわね」 美希は指を中で動かしたまま、せつなの足の間に顔を埋める。せつなの敏感な部分を舌で転がし、 唇で吸いながら、指の動きを一層激しくする。 「あぁっ、ひゃ…ぁあ、やぁぁんっ…ああぁ」 せつなの愛液は溢れ出て止まらない。声も少しずつ大きくなっていた。 「みきっみきぃ…みきっ…」 せつなが甘えた声で両手を伸ばす。 みきは指を止めることなくもう片方の腕でせつなを抱きしめ、キスをした。 「みきっ、あたし…、おか…おかしくなっちゃい…そう」 せつなが美希にしがみつきながら言う。 「いいのよ、おかしくなっても。あたしがいるから、ね。力抜いてごらん?」 せつなの強張った身体が一瞬軽くなって、次の瞬間ビクッと震えてせつなは頂点に達した。 気付くと、せつなは美希の腕の中でベットに横になっていた。 「気が付いた?」 「美希、あたし…」 「せつな、可愛かった。」 「さっきの…」 「気持ちよかった??」 「……うん…」 「ラブには内緒よ?すればするほどもっと気持ちよくなるから、また1人でいらっしゃい。」 「わかったわ。あのね、美希」 「なに?」 「もう1回キスして?」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/300.html
「せつなぁ、お待たせ!」 ラブが慌ただしく駆け寄って来る。 忘れ物を教室に取りに戻っていたのだ。 よくある事。始めのうちはせつなも付き合って一緒に戻っていた。 しかしあまりに頻繁なので、この頃はせつなは先にゆっくり行く。 大抵、大急ぎで往復してきたラブは校門の辺りで追い付く、と言う寸法だ。 「寒っ……!」 ラブがコートの襟を掻き合わせる。もう木枯らしの季節だ。 「マフラーもしてくればよかった。」 「さすがにまだ早いでしょ。それに……」 「??」 「また忘れ物、増えるだけじゃない?」 ラブはぷぅと子供のようにほっぺを膨らませている。 「まだそんなに寒くないじゃない。」 せつなはまだ制服のブレザーだけだ。 少し肌寒い気がするけど、歩けば温まるし。 「ラブは寒がりなの?」 「そーだよ。暑いのはヘーキなんだけどなぁ。」 いつもの帰り道。他愛ないお喋り。 学校で皆でワイワイするのも楽しい。 美希やブッキーと四人で過ごすのも大好き。 おじ様やおば様と家で過ごす時間もとても幸せ。 でも、ラブと二人きりで歩くこの時間はせつなのお気に入りだった。 「……ふわあ~…。」 「…ラブ?」 ラブが鼻をひくひくさせながらフラフラと、ある店先に吸い込まれて行く。 (??お肉屋さん?……今日、買い物の予定なんかあったかしら?) 「エッヘッへ~…!」 満面の笑みを浮かべるラブの手には揚げ立てのコロッケが一つ。 「もう!ラブったら。」 「だあってぇ……。あんまりイイニオイでさぁ!」 確かに、言われてみれば辺りには香ばしい脂の匂い。 「昨日もドーナツ買ってたじゃない。お小遣い、無くなっちゃうわよ。」 それに、もうすぐ夕御飯なのに。 ラブはそう無駄遣いするタイプではないが、事が食べ物になると 理性が働かなくなるらしい。 まぁ、それが無駄遣いで無くてなんなのだと言われればそれまでだが。 一つ一つは少額でもあまりに頻繁だから、結局いつも金欠でぴーぴー言う羽目になる。 「ちょっと。ラブ、聞いてる?」 お小言モードに入ったせつなを気にする風もなく、ラブはコロッケと同じくらい ホクホクした笑顔を浮かべている。 いつもせつなはこのシアワセ顔で何も言えなくなるのだ。 「ハイ!」 「……!!」 「半分こね!」 「…あ………ありがと…。」 どーいたしまして! ニヘへ!といつもの笑い声。 ラブは右手、せつなは左手でコロッケをかじりながら歩く。 カラッと揚がった衣が歯の間でカリカリと砕ける。 ポテトが甘く舌の上で蕩ける。 前に家で作ったコロッケは、もっとホクホクして塩味がしたっけ。 どっちも美味しいけど、こんなに味が違うの、どして? 「ラブ、足りないんじゃない?」 「んー?いいの。半分こするともっと美味しいよねぇ。」 「……。」 「それに沢山あるものじゃなくって、少ないものを分け合うのが 愛ってもんなのよ。」 「……なにそれ?」 口の回りに衣のクズを付けたまま、真面目な顔をするラブが可笑しくて。 「……?!」 そっと手が握られる。 そのまま繋いだ手はラブのコートのポケットへ。 ポケットの中で、ラブはせつなの手を指をしっかり絡め直す。 繋いだ手から熱が伝わる。頬と耳が熱くなる。 「あったかいね。」 「………うん。」 「おいしかったね。」 「………うん。」 「でも、せつなの作ったコロッケはもっとおいしーよ。」 「……明日、……作る。」 「えへへ、やったぁ!」 幸せゲットだね! そう言うラブの横顔もほっぺがピンクに染まっている。 二人の影が夕焼けに長く伸びる。 もうすぐ家。でも、もう少しだけ………。 ゆっくり、ゆっくり、歩く。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/125.html
「my mother」/◆BVjx9JFTno 夜空には、雲ひとつ無い。 星が瞬き、半円形の月が出ている。 今日は、家族で温泉旅行。 「温泉って...何?」 家族で話している時の私の一言で、 お父さんが奮発してくれた。 初めて入る温泉は、外でお風呂に入るということが ちょっと恥ずかしかったけど、体が芯から暖まり、 肌もすべすべになって、とても気持ちが良い。 ラブと背中の流しあいもして、ゆっくりと お湯につかりながら、色んな話をした。 私は何だか眠るのが惜しくて、みんなが眠った後も 部屋にしつらえてある縁側に座り、夜空を眺めていた。 「どうしたの?せつなちゃん」 声がして振り向くと、お母さんが起きていた。 私の隣に座る。 「何だか眠るのが惜しくて...」 「...そう...きれいな夜空ね」 しばらく、ふたりで空を見上げていた。 月明かりが、私たちを優しく照らす。 「何だか、夢みたいで...」 「夢...?」 「私、自分がこんなに幸せな気持ちに なれるなんて、思ってなかったから...」 心地良い風が、ほおを撫でる。 「そっか...私も今、とっても幸せなの」 お母さんの横顔は、静かに 微笑みをたたえている。 「今のせつなちゃんとラブを見てると、本当に 昔からの姉妹、いや双子かな。そう見えるの。 最近は何だか、顔まで似てきちゃってるみたい」 お母さんがクスリと笑い、 夜空を見上げた。 「せつなちゃんはもう、うちの娘だもん。 家族の顔が似るのは、当たり前かもね」 私の、家族。 物心ついたときには、既に施設だった。 親の顔は、知らない。 食事、教育、訓練。 言葉を発することは、許されなかった。 そのうち、誰ひとり話をしなくなった。 ひとりっきりで、生きてきた。 ずっと憎んできた、幸せ。笑顔。 それは、裏返せば、私が憧れていたもの。 ずっと、望んでいたもの。 旅先の夜空のせいか、心がとても 素直になる。 言いたかった言葉がある。 今こそ、口にしてみる。 「ありがとう...おかあ...さん」 私の、お母さん。 お母さんが私に寄り、 私の頭を抱く。 「そう、それでいいのよ。 私が、せつなちゃんのお母さん」 あふれそうになる涙を、ぐっとこらえる。 この街に来てから、私はちょっと泣きすぎだ。 晴れた空に、うろこ雲が拡がっている。 すっかり秋の空だ。 山登りには自信があったが、 ことレジャーとなると、ラブの体力は 体育の授業とは比べものにならない。 「わはー!すっごく綺麗!」 先に山頂に着いたラブが、 歓喜の声を上げる。 「せつな!お父さん!お母さん!早くおいで!」 少し遅れて、私も山頂に着く。 「わあ...綺麗...!」 360度、視界を遮るものがない。 空と、山と、鳥の声。 深呼吸する。 新鮮な空気が、体をきれいにするようだ。 後から登ってくるお父さんとお母さんに 自然と声が出た。 「お父さん!お母さん!とっても綺麗!」 ラブが、きょとんとした顔で私を見た後、 満面の笑みで首に飛びついてきた。 「きゃっ!...危ないよ、ラブ」 「あはっ、せつなあ」 ぎゅうっと抱きしめられる。 ラブの思いが、体から伝わる。 私には、こんなに素敵な家族がいる。 私とラブは、お父さんとお母さんに 手を振りながら、登ってくるのを待った。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/87.html
ラブせつ愛の印、ペンダント回は7話。 初期クローバーの友情を確認するなら9話。 15話ではラブが「せつなとデート!」と発言。 やはりラブせつファンには22~25話がネ申。無論、泣けます。 ブキせつファンは26話。美希せつファンは絶対に33話必見! 40話はあゆみさんとせつなの感動秘話。新たな神回に。 42話ではラブ⇔せつな的場面が。また、せつなへの3人の想いが奇跡を起こします! 各話リスト 1 もぎたてフレッシュ!キュアピーチ誕生!! 2 つみたてフレッシュ!キュアベリー誕生!! 3 とれたてフレッシュ!キュアパイン誕生!! 4 シフォンが迷子?町中もう大騒ぎ!! 5 遊園地でドキドキ!ワクワクデート気分!? 6 消えたハンバーグ!大好きなものを守れ!! 7 せつなとラブ 友情のクローバー! 8 シフォン大ピンチ!ピーチの新しい力!! 9 美希の夢 私プリキュアやめる!! 10 タルトが祈里で祈里がタルト!? 11 ミユキの怒り!もうダンスは教えない!? 12 みんなで変身!フサフサ大作戦!! 13 シフォンが病気!?パインの新しい力!! 14 4人目のプリキュア!?アカルンを探せ!! 15 せつなとラブ 相手を思いやる心! 16 恐怖の文化祭!夜の学校に響く足音!! 17 シフォンはまかせて!ベリーの新しい力!! 18 プリキュアに会いたい!小さな女の子の願い!! 19 新たなカード!イースの新しい力!! 20 ダンスとプリキュア…どちらを選ぶ!? 21 4人目のプリキュアはあんさんや!! 22 せつなとラブ あなたがイースなの!? 23 イースの最期!キュアパッション誕生!! 24 せつなの苦悩 私は仲間になれない! 25 イース対パッション!?私は生まれ変わる!! 26 4つのハート!私も踊りたい!! 27 夏だ!祭りだ!オードリー!! 28 大切な記憶!おじいちゃんとの思い出!! 29 謎だらけの男!カオルちゃんの正体!? 30 タルト危機一髪!正体がばれちゃう!? 31 ラブと大輔 仲直りのしかた! 32 さようなら!タルトとシフォン!! 33 美希とせつなのこわいもの! 34 インフィニティ現れる!明日を取り戻せ!! 35 シフォンの隠された秘密! 36 新たな敵!その名はノーザ!! 37 シフォンを守れ!プリキュアの新しい力!! 38 クローバーボックスをさがせ!! 39 ケンカは禁止?沖縄修学旅行!! 40 せつなとラブ お母さんが危ない! 41 祈里と健人の船上パーティ! 42 ラビリンスからの招待状! 43 世界を救え!プリキュア対ラビリンス!! 44 妖しき草笛!奪われたシフォン!! 45 4人はプリキュア!クリスマスイブの別れ!! 46 サウラーとウエスター 最期の戦い!! 47 世界が変わる!ドーナツが起こした奇跡!! 48 最終決戦!キュアエンジェル誕生!! 49 驚きの真実!メビウスの本当の姿!! 50 笑顔がいっぱい!みんなで幸せゲットだよ!!
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/186.html
四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode1:グレーと赤と、赤 薄明りの中 寝返りを打って すぐ隣にある横顔を見つめる。 小さなベッドに二人は さすがに距離が近い。 そのせいもあってか 寝付くのにちょっと時間がかかったみたい。 でも やっぱり疲れていたのだろう。 規則正しい寝息と共にあるのは 穏やかで あどけなくさえ見える寝顔だ。 軽く身じろぎしてこちらを向いた 彼女の額にかかる髪を 起こさないように そろりと右手を伸ばして撫でた。 ――ゴメンね。 友達だなんて言いながら この子にしてきてしまった仕打ち。 この子を傷付けたに違いない 数々の言葉たち。 それを思い出して 新たに溢れそうになる涙を ぐっとこらえる。 そのとき 眉間にキュッと皺が寄って わずかに開いた口から 苦しげな息が漏れた。 彼女の顔を見つめながら 髪を撫でていた右手を下ろす。 そして 布団から出ていた少し冷たい手を そっと握った。 ――大丈夫だよ、せつな。 今度こそ せつなには あたしがちゃんと付いてるから。 友達で 家族で 仲間だからね。 お父さんとお母さんだって そう言ってたでしょう? いろんな話をして たくさん笑い合って とびっきり楽しい毎日を過ごそう。 そして一緒に 必ず幸せ ゲットしようね。 いつの間にか またすやすやと寝息を立て始めるせつな。 その顔を しばらくの間 眺めてから あたしは繋いだままの手を 布団の中に大切に仕舞って 目を閉じた。 四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode1:グレーと赤と、赤 「あら、せつなちゃん、おはよう。よく眠れた?」 「はい。おはようございます。」 一階の、ひとつづきの部屋の一角。カウンターで仕切られた狭いスペースにいるラブのお母さん――あゆみおばさまが、私に気付いて、にっこりと笑いかけた。 ソファに座っていた圭太郎おじさまも、読んでいた新聞から目を上げて、おはよう、と穏やかな声をかけてくれる。 私は挨拶を返してから、何だかあたたかな気持ちで、改めて部屋の中を見渡した。 盛大に朝日が差し込んだ、眩しいくらいに明るい部屋。開け放たれた窓の外からは、チチチ・・・と鳥のさえずりが聞こえてくる。 この家で迎える、初めての朝。こんなところに自分が居るなんて、どうにも現実感が湧いてこない。何だかまだ、夢の中にいるようだ。 おばさまが立っているスペースが、窓からは最も遠い。だからそこでは、朝日もぼんやりとした光となって、その空間に満ちている。でも、彼女が向かうカウンターの上は、金属製だろうか、何故かそこだけ一面の銀色で、ピカピカの表面が柔らかな光を放っていた。 おばさまは、先が平たくなった細長い器具を持っている。その手元からは、何かがジューッと焼ける音と、香ばしい匂い。そしてその隣には、あたたかそうな湯気の立ち上る、これまた銀色に光る大きな入れ物。 (ああ、朝ご飯を作っているんだ。) この世界では、普段はそれぞれの家で食事を作るのだということを思い出す。そう言えば、おばさまも昨夜、「私が作る料理はすっごく美味しいのよ」って言っていたっけ。 ようやく状況が飲み込めたのと、おばさまの柔らかな声が聞こえてきたのが、ほぼ同時だった。 「せつなちゃんは、朝はパンが好き?それともご飯かしら。」 「・・・・・・。」 質問の意味がわからなくて戸惑っていると、おばさまは私の答えを待たずに、楽しそうに言葉を続けた。 「うちはねぇ、結構バラバラなの。あ、ひとりひとりバラバラって意味じゃなくて、みんなで一緒に食べるときは、みんな同じものを食べるんだけどね。 大抵はパンなんだけど、お冷やご飯で、ラブが得意のオムライスを作ったりするし。 それに、お父さんが前の晩に飲んで帰ってきて、朝はどうしてもお味噌汁が飲みた~い!なんて言ったら、ご飯になるし。」 そう言って、おばさまはもう一度、にっこりと笑う。 「おいおい。そんなリクエスト、年に一度か二度だろう?」 向こうでおじさまが、のんびりと言う。 やっぱり、おばさまの言葉の意味はあまり理解できなかったけど、その笑顔を見て、何だかホッと肩の力が抜けた。 この人の笑顔は好きだ。優しいって言葉は、まだよくわからないけれど、きっとこの笑顔のようなことを言うんじゃないかと思う。 ラブの笑顔に、何だかとてもよく似ている。親子っていうのは、こういうところも似るものなんだろうか。 「あの・・・何か、お手伝いします。」 「ありがとう。でも、ここはいいから着替えてらっしゃい。あ、着替えは、今日はラブの服で我慢してね。」 そう言いながら、おばさまは後ろに備え付けられた大きな戸棚の中から、お皿を四枚取り出して、並べ始めた。 「そんな、我慢だなんて・・・。いろいろ、すみません。」 「いいのよ。昨日の服は、今、洗濯してるからね。あ、そう言えばせつなちゃん。」 おばさまが急に声をひそめて、私の方に顔を寄せてきた。 「あのブラウス、この辺が少し破れてたわよ。何かに引っかけたんじゃないかしら。気が付かなかった?」 「・・・え?」 おばさまが少し体をひねって、右の腰の少し後ろ辺りを指してそう言うのを聞いて、私は驚いて目をパチパチさせた。 破れてた?いつの間に? 慌てて記憶を辿ってみる。頭の中で一昨日まで遡って、あ、と思った。 (あの、ドームからの帰り・・・。) 最後のナキサケーベを呼び出した、あのドームでの戦いの後。ラブたちに正体を明かしたせいで、せつなの姿のままドームを去ろうとしたとき。 ラブたちの視界から消えた途端、気が緩んだ私は、瓦礫に足を取られて転倒したのだ。最後のカードを使ったばかりの体はボロボロで、歩くのさえ辛い状態だった。 あのとき、ドームの様子は惨憺たるものだった。崩れたコンクリートに、あちこちでむき出しになった鉄骨。服を引っかけるものなんて至る所にあった、あのときに破れたのに違いない。館に帰ってすぐにイースの姿に戻ってしまったし、服のことなんて気にも留めていなかったので、今日まで全く気が付かなかった。 「せつなちゃん?」 あの惨状を思い出して俯いた私の顔を、おばさまが心配そうに覗き込んでくる。 「あ・・・ごめんなさい。私、全然気が付かなくて・・・。」 「そう。まぁ、心配しなくても大丈夫よ。さぁ、朝ご飯にするから、着替えた着替えた。ああ、悪いけど、ラブを起こしてくれる?あの子ったらお休みとなると、ほんっとに、いつまでだって寝てるんだから。」 そう言って、大袈裟に眉をへの字に寄せてみせるおばさまの顔。やっぱりラブによく似たその表情に、私は思わずクスッと笑って返事をすると、二階へと足を向ける。 「おっ、ハムエッグにコーンスープか。うまそうだなぁ。」 後ろの方から、ゆったりとした足音と、おじさまの嬉しそうな声が聞こえてきた。 ☆ 「よぉし、じゃあ張り切って、お買い物に行こう~!」 ラブが勢いよく拳を突き上げる。それを見て、美希はやれやれ、といった調子で溜息をつき、祈里はニコニコと人の良さそうな笑顔を見せる。 私は、ラブから借りた淡いピンクのTシャツに、紺のフレアスカートという出で立ちだ。抜けるような青空の下、やっぱり何だか、まだ夢じゃないかとどこかで疑いながら、この輪の中に加わっていた。 クローバータウン・ストリートの、天使の像の前。今日はみんなでお買い物に行こうよ!と、ラブが朝ご飯を食べるのもそこそこに、美希と祈里に連絡を入れたのだ。 四人でここで待ち合わせて、すぐにどこかに行くのかと思ったら、さてどの店に行こうか、という相談が始まった。 なるほど、この世界では何かひとつのものを買うにも、それを売っている店が一軒だけとは限らないことが多い。特に、洋服を売っている店は実にたくさんあって、それぞれの店で、置いてある服のデザインや雰囲気が違う。それは、この世界に来て数カ月の私ですら、知っていることだった。 モデル、という仕事をしている美希が、三人の中で一番ファッションに詳しいようで、様々な店の名前を挙げて、その特徴を説明してくれる。もっとも、私は聞いてもよくわからなかったが、その中から、ラブと祈里が一軒ずつ、これはと思う店を選んだ。 「アタシのおすすめは、せつなも一緒に行った、あの店かな。あそこなら、いろんなイメージの服がいろいろ揃ってるし。」 「私も・・・一緒に行った?」 「ほら、前にみんなでボーリングに行ったとき、その前にお洋服見たじゃない?あのときは結局、何も買わなかったけどね。」 美希がそう言って、私に微笑みかける。 「じゃあとりあえず、その三軒から行ってみよっか、せつな。」 「え?」 「今日のメインは、せつなの服を買いに行くことだからさ。あ、もちろん、途中で気になるお店があったら、そこも見てみようよ。ねっ?」 ラブの言葉に、私は驚いて、三人の顔を順繰りに見つめた。 (お買い物って・・・私の洋服を買うのに、みんなが付き合ってくれる、ってことなの?) 私の戸惑った視線を、三人が穏やかな笑顔で受け止めてくれる。不意に胸の中に広がったあたたかさが、一気に顔にまで上がって来るのを感じて、私はつっかえながら、やっと言葉を押し出した。 「・・・あ、ありがとう。」 三人の笑顔が大きくなって、私を包む。心臓が小躍りするような高揚感と、不思議な安心感の両方を覚えながら、私は三人の仲間たちに囲まれて、歩き出した。 店に展示された洋服を、次から次へと、体の前にあてがわれる。確かに前にも、こんなことがあった。でも、ラブのリンクルンを奪う機会を窺って、ただ時間が過ぎるのを待っていたあのときとは、私自身の気持ちが大きく違う。 「うーん、やっぱりこっちの方が似合うかなぁ。ねぇ、せつなはどう思う?」 「え、ええ。そうね。」 「じゃあ、それはキープしといて、こっちはどう?」 「あ、それも似合ってるね、美希ちゃん。どう?せつなさん。」 真剣に、熱心に服を選んでくれる三人に、満足に答えられない自分が情けなく、もどかしい。こんなにたくさんある洋服の中で、どれが自分に似合うかなんて、私にはさっぱり分からないのだ。みんな私のために、色々考えてくれているというのに。 (仕方がないわ。今まで、自分のものを自分で選んだことなんて・・・) そう心の中で呟きかけて、いや、そうじゃなかった、と思い出す。 一度だけだが、こんな風にたくさんの洋服を前にして、悩んだことがあった。あれは――。 私が過去の記憶をたどり始めた、そのとき。 「あっ、せつなぁ!この服、せつなが持っているのと、同じじゃない?」 まるで私の物思いを見抜いたかのようなラブの言葉に、私は驚いて顔を上げた。 ラブが手にしているのは、この店にある洋服の中ではとても地味な、グレーのブラウス。昨日まで私が着ていたものと、同じものだった。 「ねぇ、せつな。このブラウス、ほかにもいろんな色があるみたいだよ?ほら、こんなのとかぁ、こんなのとか!」 ラブがグレーのブラウスを元に戻して、色違いの、二枚のブラウスを手にする。フリルの付いた前立ての色はどれも同じグレーで、ほかの部分の色が、片方は紺、もう片方は赤。その赤いブラウスに、私は見覚えがあった。 あれはひと月半ほど前のことだったか。この世界の季節に合わせて、潜入時用の夏服を揃えるようにと、ラビリンスの本国から通達があったのだ。 この世界にやって来たときは、この世界の人間の姿でいるときの私服も、あらかじめ用意されていた。だが、当初の計画では、この任務は夏まではかからないはずだったのだろう。 異世界での任務では、こういうことは時々あるものらしく、ウエスターとサウラーは、あっという間に小物まで揃えて戻ってきた。が、私は初めての買い物を、そう簡単には終わらせられなかった。 思えば私は、あのとき生まれて初めて、自分で何かを選ぶという体験をしていたのだ。 店員さんに何かを訊いたり、誰かに相談したりなんか、出来やしない。カートの前を何気ない素振りで何度も行き過ぎながら、横目でちらちらと洋服をチェックし、意を決してハンガーを手に取り・・・そうやって最後に残ったのが、昨日まで着ていたグレーのブラウスと、今ラブが手に持っている、赤いブラウスだった。 本心を言えば、あのとき私は、赤いブラウスの方に心惹かれていた。明るくてあたたかな色、という思いが、どこかにあったのかもしれない。 でも、赤はそれだけ、人目を引く色でもある。結局、潜入用であるということを考えて、私が選んだのは、人目に付かない地味なグレーだった。 ブラウスに合わせて黒のハーフパンツを選び、足元はサンダルを選んだ。これくらいなら目立たないだろうと、真っ赤なサンダルを選んだのは、やはり、あの赤いブラウスが心に引っ掛かっていたせいだろう。 「せつな。この赤いブラウス、試着してみたら?」 私の視線に気付いたのだろう。ラブがブラウスのハンガーを、微笑みながら差し出してきた。 狭い仕切りの中で着替え、店の洋服を着てそこから出て行くというのは、どうにも落ち着かない。その上、待ち構えていた三人の目に見つめられると、また違った落ち着かない気分に襲われる。 それでも、鏡に映った私の顔は、何だかヘンに締りがなくて、今にも笑い出しそうに見えた。 「せつなさん、なんか嬉しそう。」 祈里にニコニコと気持ちを言い当てられて、頬が熱くなる。 「せつな、赤が似合うね!今持ってるのも大人っぽくて素敵だけど、これ、すっごくせつなに似合ってるよ!」 ラブが自分のことのように、歓声を上げる。 「そうね。色違いを持っておくっていうのも、いいんじゃない?これなら、どんなものとも合わせやすいし。何より、せつなが気に入ってるっていうのが一番よ。」 少し離れたところから腕組みして眺めていた美希が、そう言いながら近付いて、私の顔を見つめた。 「どうする?これに決める?」 「ええ、そうするわ。」 自分でも驚くくらい、力強く言い切ってしまった。遅れてじわじわと嬉しい気持ちが胸を満たして、もう一度密かに驚く。好きなものを、自分の好きに選べるという喜びが、初めて実感を伴って、分かったような気がした。 「じゃあ、決まり!」 ラブがニコリと笑うと、私の手を取って、勇んでレジへ向かおうとする。 「ちょっと、ラブ!それまだ試着でしょう?せつなも、いくら気に入ったからって、ここから着て帰るつもりなの?」 美希の呆れた声に、私とラブは、あ、と同時に立ち止り、顔を見合わせて思わず吹き出した。そして、そのまま涙が出るくらい、みんなでひとしきり笑った。 ☆ 途中で昼食にハンバーガーを食べたり、ドーナツ・カフェに立ち寄ったりしながら、夏物の洋服と下着を一通り買い揃えて家に戻ったときには、もう辺りは薄暗くなっていた。 「いい買い物が出来たみたいで、よかったわねぇ。」 買ってきた洋服を、お店でしたみたいに私の胸の前にあてがって、おばさまが目を細める。その顔を見ていると、何だか申し訳ない気持ちになった。 「すみません。たくさん買ってしまって・・・。」 「せつな、そんなこと・・・」 何か言いかけるラブを制して、 「せつなちゃん。」 おばさまが、私の肩にそっと手を置いた。 「せつなちゃんは家族なんだから、すみませんなんて、いちいち言わなくていいのよ。親が子供のものを買うのは当たり前のこと。それに、家族がお互いに助け合うのも、当然のことなんだから。」 「・・・・・・。」 ジワリと涙がにじみ出して、慌てて視線を足元に向ける。 ――せつなちゃんは、家族なんだから―― その言葉が、何度も何度も、頭の中をぐるぐると回っている。 確かに昨日の夜、この家に迎えられたときに、おじさまとおばさまから、そう言われた。でもまだ信じられなくて、それでいてあまりに嬉しすぎて、その言葉を聞いただけで、まだ心と体が震えてしまう。 おばさまの手がすっと動いて、私の背中を撫でてくれる。その温もりを感じていると、震えは少しずつ、おさまっていった。 「あのね、せつなちゃん。」 おばさまが、再び肩に手を置いて、私と目と目を合わせる。 「もし、何かしてもらって嬉しいと思ったら、そのときは「すみません」じゃなくて、「ありがとう」って言った方がステキよ。せつなちゃんの嬉しいって気持ちが、相手にちゃんと伝わると思うわ。」 (「すみません」じゃなくて、「ありがとう」。) 心の中にストンと落ちてきた言葉を、思い切って口に出そうとしたとき、後ろから、ラブがどん、とぶつかってきた。 「さっすがお母さん、いいこと言う!せつな、今日「ありがとう」って、みんなに言ってたもんね。美希たんもブッキーも、嬉しそうだったよ。」 「もう、ラブったら!そんなこと大声で言わないでよ。」 「あらあら。」 恥ずかしくて慌てる私の顔と、やけに得意げなラブの顔。並んだ二つの顔を見比べるようにして、おばさまは楽しそうに、うふふ、と笑った。 ☆ その夜。 「せつなー。お母さんが、今日買ったもの全部、この中に入れておきなさいってー。」 ラブが、透明なプラスチックの大きな箱を抱えて、部屋に入ってきた。箱には引き出しが付いていて、そこから中身を出し入れできるようになっている。 「あたしの部屋もそうだけど、せつなの部屋も、押し入れの半分をタンス代わりに使うことになると思うんだ。だからこういう衣装ケースに服を入れて、それを押し入れに入れるんだよ。」 ほら、と言って見せてくれたラブの部屋の押し入れの中には、その言葉通り、この箱と同じ箱が幾つかと、ハンガーにかけられた何枚かの洋服が見えた。 なるほど、と納得しながら、何気なく箱の中を見た私は、そこに何かが入っているのに気付いて、引き出しを開けた。 それは、私が昨日まで着ていた洋服――グレーのブラウスと、黒のハーフパンツだった。洗濯され、きっちりとアイロンがかけられて、丁寧に畳まれている。でもこのブラウス、確か破れてるっていう話だったんでは・・・? ラブのベッドを借りて、ブラウスが皺にならないように、そっと広げてみた。右袖の付け根から二十センチくらい下のところに、確かに何かに引っかけたような、かぎ裂きがある。それを見つけたとき、思わず手が震えた。 破れていたからではない。その破れ目は、今はほとんど目立たないように、丁寧に繕われていたのだ。 触ってみると、後ろからそっくりな色の布を当てて、細かい針目で目立たないように、でも再びほころびることがないように、丹念に縫われているのがよくわかった。 ただ地味だからという理由で、潜入のための仮の衣装として、選ばれた服。それなのに、おばさまは持ち主である私よりも丁寧に、この服を扱ってくれた。破れたからと言って諦めずに、もう一度命を吹き込んでくれた。そう思ったとき――何故かとめどもない涙が、頬を伝った。 「せつな?・・・せつな!どうしたの?」 ラブが心配して駆け寄ってくる。 私の肩を抱き、ベッドに広げられた服を見て、その手にキュッと力が入った。そして、おばさまにそっくりな手つきで私の背中を撫でながら、 「良かったね、せつな。これなら、またいつでも着られるよ。」 と、ラブは力強く、優しい声でささやいた。 やがて涙が止まってから、私はブラウスをもう一度丁寧に畳むと、引き出しの中に仕舞った。そして、ラブに向かってちょっと微笑みかけてから、部屋を出た。 階段を下りて、一階に向かう。下りきったところは、すぐに玄関だ。その隅に、私の赤いサンダルが、今日一日の埃を払われ、ラブのスニーカーと並んで置いてあるのが目に入った。 このサンダルで、ラブからもらった「幸せの素」を踏み壊した。それを思い出すと、今も胸がズキズキと痛い。でもこれからは、仲間たちに囲まれて、四つ葉町のいろいろな場所へ、このサンダルと一緒に出かけていくことになるんだろう。 あのときのペンダントの硬い感触と一緒に、公園の柔らかな土の匂いや、みんなの賑やかな足音が、このサンダルにも刻まれていくんだろう。 そんなことを思いながら、私は玄関にしゃがみこんで、今は深みを帯びて見えるその赤を、しばらくぼーっと見つめていた。 部屋の中から、テレビの音と、おじさまとおばさまの話し声がかすかに聞こえてくる。 「ありがとう、おばさま。」 私は口の中でそっと呟いてから、今度はそれを本人に伝えるために、ドアのノブに手をかけた。 ~終~ ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode2:夕焼けとメロンドーナツへ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/187.html
四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode2:夕焼けとメロンドーナツ 夏の夜は、なんだか街灯の光までもがあたたかい。こんな夜だから、尚更なのかな。 アタシはシフォンが居なくなって急に寂しくなった両手を、胸の前で組み合わせた。 「ラブちゃんは、やっぱり凄いね、美希ちゃん。」 隣りを歩くブッキーが、ゆっくりとささやくように言う。 「そうね。」 アタシは短くそう答えながら、さっきの光景を思い出していた。 ――もしよかったら、このままうちにおいでよ。 せつなに、そう力強く声をかけたラブ。 そんなラブの言葉を支えるように、穏やかに頷いてみせたおじさん。 戸惑い俯くせつなを、その涙ごとやさしく包み込んだおばさん。 あの三人なら、きっと心から、せつなの家族になっていくだろう。 そして――。 「ラブはもちろん、凄いけど・・・」 アタシはそう呟いて、空にひときわ強く輝く星を見つめる。 「せつなも、凄いわ。」 管理された世界――命すら自分のものではない世界で、懸命に生きてきた子。それなのに、信じていたものに裏切られ、捨てられた。頼りにしていたものが崩れ去ってしまう哀しみと虚しさは、ほんの少しなら、アタシにもわかる。 それでもせつなは、新たに知った大切なものを、守っていくと決めた。ひとつひとつやり直していくために、精一杯頑張ると言い切った。その真っ直ぐさ、ひたむきさが、アタシには眩しい。 「・・・うん。そうだね。」 ブッキーが、いつもより一層やさしい眼差しを、アタシに向ける。 アタシたちはそれきり黙ったまま、空の光と地上の光が照らし出す夜のクローバータウン・ストリートを、それぞれの家へと、静かに向かったのだった。 四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode2:夕焼けとメロンドーナツ 「へぇ。せつなさんの机は、おじさんが作ってくれたの?」 「ええ。」 ブッキーの言葉に、せつながニコリと笑って頷く。 「確か、ラブの机もそうだったよね。もう、日曜大工の域を超えてるんじゃない?」 「えへへ~。」 美希たんににんまりと笑い返して、あたしは隣りに座るせつなの顔を、チラリと見やる。お父さんのことをほめられるのは、嬉しいって言うより照れくさいけど、今はせつなが幸せそうなのが、何より嬉しい。 公園を吹く風が、昼間に比べればほんの少し、涼しくなってきたみたい。今日は一日、タケシ君とラッキーの運動会の練習に付き合って、これから四人でお疲れ様のドーナツタイムだ。 「いいなぁ。うちのお父さん、そういうの、からきしダメだから。この前なんて、病院にある棚を直そうとして、逆に壊しちゃったの。さすがにしばらく落ち込んでた。」 「うちは、ママとアタシじゃあ、どうにもならないから・・・。あ、そういえば前にラブのお父さんが、うちの店のマガジンラック、直してくれたってママが言ってたわ。」 そこでせつなのいぶかしげな視線に気付いたんだろう。美希たんがこちらに顔を寄せて、小声で尋ねてきた。 「ラブ、せつなにまだ話してないの?うちのこと。」 「あ、うん・・・まだ、その・・・。」 あたしがもごもごと口ごもっているうちに、美希たんはせつなの方に向き直ると、微笑を浮かべながら、さらりとした調子で言った。 「うちはね、両親が離婚してて、ママとアタシの二人暮らしなのよ。」 「・・・離婚?」 「そう。アタシがまだ小さい頃にね。」 「そうだったの。」 テーブルに視線を落とすせつなに、美希たんは顔の前で手を振って、明るい声でこう付け足した。 「ああ、でも、パパとはそれきり会ってない、なぁんてわけじゃないのよ。現に、今度の日曜日にも、会いに行くことになってるし。 今は弟の和希と隣町に住んでるから、一カ月か二カ月に一度は会いに行ってるの。弟とは、もっとしょっちゅう会ってるしね。」 「そう。」 これ以上なく短いせつなの言葉。でもその中に、何だかあったかい響きが混じっている気がして、あたしはせつなの横顔に目を向ける。と、そのとき、テーブルを見つめていたせつなが、顔を上げてまっすぐに美希たんを見た。 「それで、どうして美希と美希のお母さんじゃ、どうにもならないの?」 「え?何の話?」 一瞬ポカンとした美希たんに、せつなは小首を傾げながら、真剣な顔で続ける。 「日曜大工・・・って言うんだったかしら。それって、男の人じゃないと、できないものなの?」 「ああ、その話。いやぁ、そんなわけじゃ・・・。」 美希たん、なんか焦ってヘンな顔になってる。せつなは別に、責めてるわけでも何でもなくて、ただ疑問に思ったことを質問しているだけなのに。 「ほ、ほら!ママは美容師だから、手を怪我したら仕事出来なくなっちゃうでしょ。アタシもモデルだから、怪我するわけにはいかないのよ。」 「え・・・日曜大工って、怪我するの?」 美希たんの説明を聞いて、さっきとは一転、心配そうに眉をひそめるせつな。その顔を見て、美希たんの慌てっぷりがピークに達した。 「あ、ああ、違うのよ、せつな。おじさんみたいに上手な人は、怪我なんかしないから!ほら、アタシやママは慣れてないから・・・いや、アタシだって、慣れれば・・・ううん、気を付ければ、大丈夫なのよ。だから、心配しないで!」 「美希ちゃん・・・日曜大工、やるつもりなの?」 ブッキーがいたずらっ子のような目をして、美希たんの顔を覗き込む。思わずブッと吹き出すと、ブッキーもこらえきれなくなったのか、フフッ、と笑いを漏らした。恨めしそうにあたしとブッキーを見ていた美希たんも、やがて照れ笑いから、そのまま笑顔になる。 一人だけ状況が掴めずにポカンとしているせつなに、さて何て説明しよう・・・と思っていると、 「はい、お待ちどうさま~。」 タイミング良く、カオルちゃんがドーナツを入れたバスケットを持ってやって来た。 「あれ?カオルちゃん。この緑色っぽいドーナツは、なぁに?」 ブッキーがバスケットを覗いて尋ねた。バスケットの中には、あたしたちが頼んだドーナツセットのほかに、薄い緑がかった色をした小ぶりのドーナツが四つ、窮屈そうに押し込まれている。 カオルちゃんが、サングラス越しにあたしの顔を見て、ニヤッと笑う。 「これ、お嬢ちゃんには一度食べてもらったよね。試作品のメロン味。あのとき反応薄かったから、おじさん頑張っちゃって、ずいぶん改良したんだよ~。」 グハッ!といつもの調子で笑うカオルちゃんの顔と、バスケットの中身に何度か目をやって、あたしはやっと思い出した。 そう、あのときだ。せつながイースだったって知って、悲しみに暮れていた、あのとき。美希たんに強い言葉をぶつけられて、思わず家を飛び出してしまった、あのとき。どこをどう歩いてきたかもわからないまま、気が付いたら、ここまでやってきていたんだった。 そういえば、確かにカオルちゃんに、ドーナツの感想を訊かれたような気がする。 「ごめ~ん、カオルちゃん。あのとき、あたし色々考え込んでて・・・。」 「いーのいーの。悩みは青春のビタミンだよ。さっ、こっちもビタミンたっぷりだから、食べてみてよ!」 そう言われて、あたしたちは揃ってメロン味のドーナツに手を伸ばす。一口食べると、甘いメロンの味と香りが口いっぱいに広がって、全員がぱぁっと笑顔になった。 「う~ん、美味しい!」 「ドーナツなのに、メロンの味が濃厚だわ!」 「すっごく美味しいよ、カオルちゃん!せつなっ、せつなも美味しい?」 「ええ、とっても美味しいわ!」 あたしたちの反応に、カオルちゃんが満足げに頷く。 「なるほど、本物のメロンの果肉を使っているわけか。贅沢よね。」 美希たんが、かじりかけのドーナツをじーっと見つめて、感心したようにつぶやく。ドーナツの中には、ジャムのように煮込んだメロンが入っているのだが、これが結構たくさんで、切り方も大きい。メロンの味をしっかり感じられるのは、このためみたいだ。 「高級感もあるし、何より美味しいし。お土産なんかにも、ぴったりなんじゃない?」 「でも、カオルちゃん。」 弾んだ美希たんの声とは裏腹に、ブッキーが少し心配そうに、カオルちゃんの顔を見上げる。 「これ、いくらで売るの?こんなにたっぷりメロンが入っていたら、それなりに高い値段じゃないと・・・」 「う~ん、そこが問題なんだよね~。」 カオルちゃんが、太い眉毛を八の字にして、顎に手を当てる。 「赤字にはできないけど、おじさん、値段上げるの嫌いなんだよねぇ。ドーナツって、ただでさえ揚がっちゃってるから~。グハッ!」 「やっぱり、売るとなったら色々難しいわけね。」 ぼそっとつぶやいた美希たんの顔を、せつなが真面目な顔で見つめている。それを見て、あたしは密かにドキリとした。あ、ヤバい。ひょっとして、せつな、また何か疑問に思って・・・。 あたしが話題を変えようと、思い切り息を吸い込んだそのとき。ブッキーがパッと顔を輝かせて、のんびりと言った。 「あ・・・。ほら見て!きれいな夕焼け~。」 吸い込んだ息をはぁっと吐き出して、後ろを振り返る。ブッキーの向かいに座っているあたしからは、丁度背中に当たる方向。うっそうと茂る公園の木々の向こう側に、もこもこした雲を真っ赤に染めた夕焼けが広がっている。 「ホント。きれいねぇ。」 穏やかにそう言う美希たんの横顔も、気が付けば夕陽を浴びている。それを見ていたら、何だか不思議な気持ちになった。 どうしてだろう。美希たんのお父さんとお母さんの離婚の話が出ると、決まってあの頃に見た、夕焼けに染まる街の景色を思い出す。さっきもそうだった。 実際は、夕陽に照らされていたのは美希たんじゃなくて、美希たんのお母さんのレミおばさんなんだけど。目に焼き付いているのは、美希たんの名前を呼びながら、夕暮れの通りを駆けていくおばさんの後ろ姿だ。 (ちょうど同じ頃の出来事だから、きっと記憶が繋がっちゃってるんだね。) そう思ったとき、 「ラブ?どうかした?」 当の美希たんに、怪訝そうな声で呼びかけられた。 「い、いやぁ、何でもないよ。」 あたしは笑ってごまかすと、手に持ったままだったメロンドーナツの残りを、一気に頬張った。 ☆ その日の夕ご飯が終わったときのこと。 「今日は、デザートにいいものがあるんだよぉ。取引先の人から、頂いたんだ。」 お父さんがそう言って、嬉しそうにあたしとせつなの顔を見つめた。 「パッションフルーツって、知ってるかい?二人とも。」 途端に、お茶を飲んでいたせつなが盛大にむせた。 「おい、せつなちゃん。大丈夫かい?」 「あらあら。お茶、熱くなかった?火傷したりしてない?」 驚いて声をかけるお父さんとお母さんに、せつなは真っ赤な顔で、しきりに頷いてみせる。 「ご、ごめんなさい。大丈夫。」 「あははは~。せつな、そんなに慌てて飲むからだよぉ。」 あたしはこみ上げてくる可笑しさを引きつり笑いでごまかしながら、せつなの背中をトントンと叩く。お母さんが、そんなあたしたちを見て安心したように微笑むと、席を立って、冷蔵庫へ向かった。 「じゃあ、早速頂きましょうか。」 「ああ、食べ頃だっていう話だったしな。切り方、わかるかい?」 お父さんが、いそいそとついていく。そんな二人の後ろ姿を眺めながら、嬉しくなったあたしはつい、余計なひと言を言ってしまった。 「わーい、パッションフルーツだって。熟れたてフレッシュだねっ、せつな。」 その瞬間。せつなの右足に向こうずねを直撃されて、あたしは声も出せずにテーブルに突っ伏して呻いた。 「ラブー。これ、そっちに運んでくれるぅ?」 何も知らないお母さんの呑気な声。 「は、は~~いぃ。」 あたしは、澄ました顔で食器を片付けているせつなを涙目でにらむと、そろそろと台所に向かった。 その夜、パジャマ姿のせつなが、あたしの部屋にやって来た。 「さっきのことなら、別に謝らなくてもいいよーだ。」 そう言って口をとがらせてみせると、せつなはクスクスと笑ってから、 「別に謝るつもりはないわ。」 と、相変わらず澄ました顔で言った。ちょっと憎たらしい。 タルトとシフォンは、またゲームに夢中になっている。夜更かししないように、ちゃんと言っておかなくちゃ、と思いながら、せつなと並んでベッドに腰掛けた。 「そうじゃなくて、美希のこと。」 笑ったことで口が軽くなったのか、そこまではすんなり言えたせつなだったが、そのあと、しばらくためらった。 「ねぇ、ラブ。昼間言ってた、美希のご両親の離婚の話なんだけど。」 せつなが上目遣いに、あたしの顔を見る。 「どうして、離婚することになったの?」 せつなの瞳に、哀しみの色が浮かんでいる。最近のせつなは、イースだった頃のことを思い出して、時々こういう目をしていた。でも今のは、自分のことじゃなくて、美希たんのことを思っての哀しみだろう。 あたしは、膝の上に置かれたせつなの手に、自分の手を重ねると、その深い朱を帯びた瞳を覗き込んだ。 「離婚の理由は、あたしも知らないんだ。そういうことって家族の問題だから、いくら美希たんと幼馴染でも、簡単には訊けないことだし。」 「そうなの。」 「でもね。」 あたしは俯きかけたせつなの瞳を、もう一度覗き込む。 「どういう理由があったとしても、おじさんとおばさんは、きっと家族のこれからの幸せを、一生懸命考えて決めたんだと思うよ。」 「どうして?家族がバラバラになって、寂しくないの?家族みんなで一緒に暮らせることが、幸せなことなんじゃないの?」 せつなは、あたしの顔をにらむようにしてそう言ってから、フッと膝の上に視線を落とした。 「私ね、ラブ。」 せつなが顔を上げずに、ぽつりとつぶやく。 「家族なんて、持てるだけで幸せなんだから、たくさん居たって、そのうちの一人しか居なくたって、同じだろうって思ってたの。でも今は、家族のうちの一人が欠けても、とっても寂しいと思う。 家族はひとりひとり、それぞれ違って、それぞれ大切なんだって、私、この家に来て教わったわ。」 「そうだね。」 あたしの手に、力がこもる。パッションフルーツを囲んでみんなで笑い合った、さっきの食卓の風景がよみがえった。 「ホント言うとさ。美希たんのお父さんとお母さんが離婚したって聞いたとき、あたし、レミおばさんに頼みに行こうとしたの。もう一度、おじさんと和ちゃんを呼び戻して、って。」 この話は、美希たんにはもちろん、ブッキーにも話したことはない。 「結局、お母さんに止められて、悲しくてわんわん泣いちゃった。そのとき、お母さんに言われたの。」 「さっき、ラブが言ってたこと?」 「そう。それとね、家族のカタチはそれぞれみんな違うんだから、家族の幸せのカタチも、みんな違うのよ、って。」 小さなあたしにそう言い聞かせたお母さんの顔を、あたしは今でもハッキリと覚えている。怖いくらいに真剣な顔だった。言われた言葉の意味は、あのときはさっぱりわからなかったのに、その内容をちゃんと覚えているのは、そのせいなのかもしれない。 「幸せの、カタチ・・・。」 小さくつぶやくせつなに、あたしはそっと笑いかける。 「ねぇ、せつな。前に、話したことあったよね。あたしたちは生きてるから、どんどん変わっていっちゃうよね、って。」 「そうだったわね。」 あれは、あたしたちが入院しているときだった。少し辛そうに顔をそむけるせつなの手を、あたしは想いを込めて、もう一度握り直す。 「幸せのカタチも、家族のカタチも、そうなのかもって、あたし思うんだ。不幸はいつでも幸せに生まれ変われるんだもの。 美希たんは、寂しい思いもいっぱいしたと思うけど、おじさんや和ちゃんと会える時間を、今では凄く大切にしてる。それって、今の美希たんにとっての、家族の幸せのカタチだからなのかもしれないよ。あたしはそんな美希たんの幸せを、応援したいんだ。」 途中からじっとあたしの目を見て話を聞いていたせつなが、また少し俯いて考え込む。 「ねぇ、ラブ。もうひとつだけ、訊いてもいい?」 しばらくして、せつなが俯いたままで口を開いた。 「美希は、寂しい思いをどうやって、家族の幸せのカタチに変えていったのかしら。」 その言葉を聞いたとき、あたしの目の裏にまた、夕焼けに染まる街の景色が、鮮やかに広がった。 ――隣町の公園の方が、すべり台も大きいし、ブランコも待たないで乗れるんだって! そんなことを言い出したのは、あたしだったような気がする。小さな三人でテクテク歩いてたどりついた公園は、広い割に人が少なくて、あたしたちはしばらく夢中になって、すべり台やブランコで遊んだ。 そのうち三人でかくれんぼを始めて、しばらくしてから、事件は起こった。美希たんが、いくら探しても見つからなかったのだ。 夕方になり、半べそをかきながら帰ってきたあたしとブッキーの話を聞いて、レミおばさんは大慌てで飛び出して行った。やがておばさんに連れられて帰ってきた美希たんは、公園でずっと隠れていた、と言った。ブッキーと二人で、あんなに必死になって探したというのに・・・。 でもあの後から、美希たんが――おじさんと和ちゃんが居なくなって、ずっと元気がなかった美希たんが、少しずつ――ほんの少しずつだけど、明るくなったような気がした――。 「あたしもそれは、よく知らないんだ。」 あたしはパチパチとまばたきをして、小さい頃の光景を再び胸に仕舞うと、せつなに向き直る。 「だから、せつなが直接、美希たんに訊いてごらんよ。」 「私が?」 驚くせつなにニヤッと笑いかけて、あたしは言葉を繋ぐ。 「あ、今すぐにってわけじゃないよ。せつなと美希たんが、もっとお互いのことをよく知って、いろんな話が出来るようになったら・・・そのときは、そういうことも話せるようになるんじゃないかな。」 昼間の美希たんとせつなの会話を思い出す。美希たんは、何だかやたらと焦っていたけど、今日はあたしも知らない、美希たんの別の顔が見られた気がした。 そう。友達のカタチだって、みんな違う。四人居れば・・・えーっと何通りだっけ、とにかくそれぞれが、違うカタチを持っている。 そして、それは変わっていく。変えられる。そのことは、あたしもせつなも、よく知っていることだ。 「私に・・・出来るかしら。」 不安そうなせつなの声に、あたしはここぞとばかりに、力強く頷いてみせる。 「もっちろん!」 明らかに力が入りすぎたその声に、せつながクスッと笑う。 「じゃあ私、精一杯がんばるわ。」 穏やかなせつなの目に、今はもう、哀しみの色は無かった。 ☆ 次の日も、あたしたちはタケシ君とラッキーの練習のお手伝いに、四つ葉町公園へやって来た。 「よぉ、お嬢ちゃんたち。今日も、ワンちゃんの練習かい?」 開店準備をしているカオルちゃんに、声をかけられる。 「うん。終わったらドーナツ食べに来るからねっ、カオルちゃん!」 そう言って行き過ぎようとしたあたしは、立ち止まったまま動かないせつなに気付いて、慌てて足を止めた。 「・・・あっ、あのっ!」 よっぽど思い切って声をかけたんだろう。握ったせつなの拳が、ブルブルと小さく震えている。 「ん?どしたの~、お嬢ちゃん。」 カオルちゃんの声は、相変わらず呑気そのものだ。 「昨日の、メロン味のドーナツ・・・あれ、もう作らないんですか?」 (え?せつな、そんなにあのドーナツ、気に入ったんだ・・・。) 一瞬あっけにとられたあたしは、続いて聞こえてきたせつなの言葉に、ハッとした。 「少しだけ・・・もう少しだけ、作ってくれませんか?せめて・・・今度の日曜日まで。」 (今度の・・・日曜日?あっ!) ――現に、今度の日曜日にも、会いに行くことになってるし。 ――お土産なんかにも、ぴったりなんじゃない? 昨日の美希たんの言葉が、よみがえった。 「お嬢ちゃん、そんなに気に入ってくれたんだ。嬉しいねぇ~。」 カオルちゃんはそう言いながら、ワゴンの中から大きな鍋を持ってきて、ほら、と蓋を取る。 鍋の中にはとろりとした薄緑色のジャムが入っていて、つやつやした角切りメロンが、たくさん顔を覗かせていた。 「いやぁ、昨日は大好評だったからさ。あとはお客さんに食べてもらいながら、もっともっと美味しいの作るよ~。最高傑作が出来るのは・・・そうだなぁ、今度の日曜日くらいかな?グハッ!」 カオルちゃんの言葉に、せつなの頬がうっすらと赤く染まる。 ちょうどそこへ、あたしとせつなの名前を呼びながら、美希たんとブッキーが駆けてくるのが見えた。 「やったね、せつなっ!ほら、美希たんに教えてあげなくちゃ。」 「え?ラブ・・・気付いてたの?」 きょとんとするせつなの手を取って、あたしは走り出す。 「おーい、美希たぁん!ブッキー!」 まだまっさらな朝の光が、あたしたちを背中から照らしている。今日も、暑くなりそうだ。 ~終~ ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode3:わたしたちの小さな天使へ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/979.html
白く、しなやかな指がペンダントのチェーンにかかる。 絹糸のように細い輪の連なり。ほんの一瞬の抵抗の後、弾けるように宙に舞う。 手を真っ直ぐに伸ばす。千切れた鎖の先で輝きを放つ、幸せの素を高く掲げる。 贈ってくれた人の目に、しっかりと映るように。 向かい合う少女は、信じられないといった面持ちでその動きを見守る。 心は凍りつき、感情は形を成さない。思考だけが状況を正確に、そして無慈悲に、記憶に刻み込んでいく。 (やめて、お願い、やめてぇ――――!!) 届かない。どんなに叫んでも、今のせつなの声は決して届くことは無い。 これは、夢の中なのだから。 せつなと、そして、きっとラブにも刻まれた過ちの記憶なのだから。 チェーンをつかむ指から力が抜け、それはゆっくりと落下していく。まるで、スローモーションのように。 固いコンクリートの床に叩き付けられ、軽くバウンドする。 ズキン――――ズキン――――ズキン ズキン――――ズキン――――ズキン――――ズキン ズキン――――ズキン――――ズキン――――ズキン――――ズキン 痛い、痛い、痛い。心が――――砕け散りそうになる。 まるで自分の魂が、その緑色のアクセサリーに封じ込められてでもいるかのように。 踵で踏み付けて力を込める。形を変えるはずのない硬い樹脂が、ほんの一瞬だけ歪む。 軋みを上げることもなく、割れる音を大きく響かせることもなく。 悲しいほどにあっけなく、四散した。 『翼をもがれた鳥(第十七話)――――幸せの素に導かれて――――』 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」 激しい運動ですら、滅多に乱すことの無いせつなの呼吸が荒れる。 額に滲む大量の汗は、寝苦しいほどに熱い気温のせいだけではないだろう。 「ある。――――ちゃんと、ここに……」 ベッドの宮棚に大切に置かれた、緑色のアクセサリーを手にする。 もう、欠片とは呼べないだろう。 砕けた破片の中から見つかった四つ葉の一枚。それを削って、磨き上げて、ハート型に仕上げたのだ。 このままでは、あまりにも悲しかったから。 後悔以外の――――意味を与えたかったから。 トン、トン、トン パジャマを着替えて、静かに階段を降りる。 まだ起きるには早い時間かと思ったが、あゆみは既に家事に取りかかっていた。 居間の隣、和室と呼ばれる畳で敷き詰められた部屋。そこで先の尖った器具で作業をしていた。 邪魔をしてはいけないと思い、その場で待つことにした。 しばらく後、作業が一段落したのか、あゆみは廊下でたたずむせつなに気が付いて振り返る。 「おはよう、せっちゃん。どうしたの? こちらにいらっしゃい」 「おはよう、あゆみおばさま。邪魔しちゃってごめんなさい」 なんとか丁寧語を崩そうと、懸命に努力しているせつなの挨拶が可愛らしかった。あゆみはせつなを招き 寄せる。 アイロンかけはほとんど終わっていたのだが、せつなの様子から、興味がありそうに見えたからだ。 不思議そうな顔で見つめるせつなに、やってみたら? とあゆみが持ちかける。 少し恥ずかしそうにはにかんで、せつなは頷いた。 霧を吹き、細かい部分から順に、直線的に動かしていく。 右手でアイロンの先を浮かして動かしながら、左手で器用に生地を引っ張っていく。 見る見るうちに美しく仕上がっていく。 あゆみは驚きに目を見開いた。 確かにアドバイスはした。素直に頷きもした。しかし、せつなの手はそれを始めから熟知しているかのよ うに動く。 その動きは、あゆみと比べても遜色のないものだった。 「すごく上手ね、せっちゃん。やったことあったのね」 「いいえ、これが初めてです」 「えっ? でも、教えていないことまで……」 「さっきまで、おばさまのアイロンかけを見ていたから」 そのとんでもない言葉に、あゆみは一瞬、驚愕して身を引いてしまう。 改めて、まじまじとせつなを見つめる。その表情には、自信も、誇らしさもうかがえなかった。 それどころか、困ったような、不安そうな様子すら感じられた。あゆみの反応に、何か失敗してしまった のではないかと心配しているのだろう。 ふと、あゆみはラブの言葉を思い出す。 とてもつらい所で生きてきた子だからって。失敗したり、言うことを聞かなかったりしたら、それだけで 命が奪われてしまう。 そんな世界で、ずっと暮らしてきた子だからって。 極限まで研ぎ澄ませた集中力。ずっと、この子はそんな風に張り詰めて生きてきたのだろう。 愛しくなって、あゆみはせつなをそっと抱き寄せた。 情緒が不安定なところもあるだろうけど、仕方がないの、わかってあげて。 ラブはそう言っていた。 情緒不安定はどちらかと思う。せっちゃんに変に思われないかしら? そう心配しつつも、抱き寄せる腕 を離す気にはならなかった。 この子に一番足りないのは、この温かさだって気がしていたから。 「おばさま?」 「ああ、ごめんなさい。嫌だった?」 「ううん――――」 「そうだ、何か用事があったんじゃないの?」 せつなは小さく頷いて、ポケットから緑色の塊を取り出した。 大切そうに、両手に乗せてあゆみに見せる。 「大事なものなんです。壊してしまって……。もし、使わないチェーンか何かあったら」 「直したいのね?」 「はい。始めは四つ葉の形をしていたんです」 「ええ、ラブから聞いているわ。あの頃ね――――」 ねえねえ、おかあさん、幸せの素って何だと思う? 商店街の福引の一等賞がそれなんだって。だから、どうしてもゲットするんだって。 キラキラと瞳を輝かせてラブはそう言っていた。 貯めていたお小遣いも全て使ってしまった。カオルちゃんのドーナツを食べるお金すら残っていない。 よく、そうボヤいていたものだった。 それでも諦めきれなくて、進んでお使いをかってでた。 買い物に出かけるたびに足を弾ませて、帰ってくるたびに肩を落として―――― ある日、素敵なお友達と知り合うことができたって、ラブはそう言っていた。 その子はドーナツを食べるのが初めてなのに、惜しみなく半分こしてくれたって。 ジュースも買えなくてお水で喉に通したけど、これまで食べたどんなドーナツよりも美味しかったって。 その後、やっと幸せの素を手に入れることができたって。そして、それをその子にあげてしまったって。 ごめんなさいって、ラブはあゆみに謝った。 あゆみは、良かったわねって、そう言って微笑んだ。 「だって、そうでしょ? もっと欲しいものが、見つかったってことなんですもの」 「はい……」 せつなは、それを両手に握りしめて瞳を潤ませる。 あの日から、あゆみはその子のことが、ずっと気になっていたって。だから、こうして家族になれて凄く 嬉しいって。 「そうそう、チェーンだったわね。待っててね」 「おばさま! それは――――」 清楚な光沢を放つ白銀のチェーン。その先に付いているのは、ハートをあしらったプラチナの細工物。 その中央に丸くて大きなルビーが収まっていた。 それは、樹脂で成型されたものなんかじゃない。本物の――――宝石だった。 「待ってください! それは、駄目です!」 「いいのよ。せっちゃん、赤が好きなんでしょう? だから、あげようと思っていたところなの」 専門知識の無いせつなにも、それが相当に高価なものだということくらいはわかる。 普段、宝石を身に付けないあゆみの持ち物であることを考えれば、大切な思い出の品だということも想像 がつく。 せつなの制止も聞かず、あゆみはそれをチェーンから外し、代わりに幸せの欠片を取り付ける。 「器用でしょう? これでも職人の娘なのよ」 「私、そんなつもりじゃ――――」 「いいの。ただし、ルビーは部屋にしまっておくこと。中学生が身に付けるものじゃないわ」 「中学生?」 「そうよ、もう手続きは済ませましたからね。せっちゃんはラブと同じ中学二年生よ」 できた! きっと、よく似合うわ。あゆみは、せつなに抱きつくような格好でペンダントをかけた。 そして、せつなの手を開いてルビーを握らせた。 情熱の赤い宝石。勝利の石とも呼ばれ、あらゆる危険や災難から持ち主の身を守り、困難に打ち克ち、勝 利へと導くという。 「きっと、せっちゃんのことを守ってくれるわ」 「ありがとう――――」 そこから先は言葉にならず、せつなは、今度は自分からあゆみに身を預けた。 飛び込むほどの勇気は出せず、触れるか触れないかの距離で全身を震わせて泣いた。 あゆみは優しくせつなの背中を撫でる。そして、心を込めて囁いた。 「幸せになりなさい。せっちゃん」 小さくて可愛らしいハート型のペンダント。せつなは、そっと首に戻して追憶を終える。 幸せになりなさい――――あの時かけられたあゆみの言葉に、結局せつなは返事をすることができなかっ た。 今なら、胸を張って答えられるだろうか? はい――――と。 無理だと思う。 それでも、せつなはこれから幸せをつかみに行く。 例え、一時のものであっても構わない。与えられるのではなく、自分から幸せを手に入れに行く。 (それをどうか――――許してください) せつなはペンダントを握りしめて、静かに祈りを捧げた。 コンコン 部屋がノックされる。音の響きでラブだとすぐにわかる。 せつなは、急いでペンダントを服の中にしまって戸を開けた。 「せつな! ブッキーがせつなに会いたいって」 「ええ、わかった。私が迎えに出るわ」 「そっか。じゃあ、あたしはお茶を淹れてくるね」 祈里からせつなに会いに来る。それがラブには大きな驚きだった。 まだ、美希や祈里はせつなと馴染んでいるとは言い難い。ラブとしても気の使うところだった。 まして、祈里は控えめな性格で、自分から行動を起こすことは少ない。それだけに意外で、そしてありが たかった。 せつなが玄関まで迎えに出ると、祈里は嬉しそうに微笑んだ。 手には大きな包みを抱えている。せつなは自分の部屋に祈里を案内した。 「いらっしゃい、ブッキー」 「お邪魔します。わぁ~、せつなちゃんのお部屋かわいい!」 「ありがとう。とても気に入ってるのよ」 せつなは本当に嬉しそうに微笑んだ。もともと、自分のことを誉められて喜ぶような子ではない。 だけど、この部屋は別だった。この家と、この家族は特別だった。 「今日は、せつなちゃんにプレゼントを持ってきたの」 「ありがとう。何かしら?」 「これは――――赤い、ダンス服? 私の……」 「せつなちゃんの、クローバー加入のお祝いよ。気に入ってもらえるといいけど」 「ありがとう――――さっそく着てみていいかしら?」 「うん、じゃあ、わたしは外に出てるね」 「それは悪いわ。ブッキーになら、見られても平気だから」 「うん、じゃあ着つけを手伝っちゃう」 下着姿になったせつなを見て、祈里は息を呑む。 透き通るような白い肌の下に秘められた、強靭なる筋肉。鍛え上げられたスレンダーな肢体なら、美希で 知っている。見たことがある。 だけど、またそれとは違う。魅せる力ではなく、秘める力。生き抜くことに特化した、戦うための肉体。 例えるならば、豹のようなしなやかさ。研ぎ澄まされた、刃物のような美しさ。一見女性らしい丸みを帯 びながらも、その奥に弾けるようなバネを感じさせた。 「せつなちゃん……すごい……綺麗」 「もう、恥ずかしいからジロジロ見ないで」 「ごめん、じゃあ、寸法の微調整もしちゃうね」 「ええ、お願い」 祈里は、メジャーと針と糸を引っ張り出して仕上げにかかった。 大まかな寸法はラブと同じと聞いていたが、念のため調整が効くように仕上げを残しておいたのだ。 「お待たせ、ブッキー、せつな。って――――何やってるの~~~!!」 「あっ、ラブ! これは」 「ちっ、違うの、ラブちゃん。脱がせてるわけじゃなくて!」 かろうじて、淹れたお茶をひっくり返さずにすんだラブに事情を話す。 フンフンと聞いていたラブだったが、納得がいくと、とたんに目を輝かせた。 「せつなって超キレイ~、あたしとはお風呂も入ってくれないんだよ」 「一緒に入ろうとしてたんだ……」 「ちょっと! もう、何の話よ。いいから服を返して!」 すっかりせつなの下着姿の鑑賞会になったことに、口を尖らせて抗議する。 身体を丸めてうずくまったせつなに、祈里は仕上げの済んだダンス服を手渡した。 「どう――――かしら?」 「せつなちゃん、よく似合ってる!」 「うんうん、これでせつなもクローバーだね!」 「ありがとう、ブッキー」 「えっ、今、せつなブッキーって……。それに、ブッキーもせつなちゃんて……」 「うん、この間からなの」 祈里が嬉しそうに事情を話す。せつなも恥ずかしそうに頷いた。 よほどダンス服が嬉しいのか、せつなは姿見を眺めながら何度もクルクルとまわる。 そして、ラブの携帯に着信が入る。 「もしもし、美希たん? えっ、せつなに? うん、代わるね」 「もしもし、ええ、今はブッキーと私の部屋よ。うん、わかった。一緒に練習しましょう」 今度は、美希からせつな宛ての電話だった。親しげに話す様子に、ラブは目をパチクリさせる。 明日は、せつなにとって初めてのダンスレッスンだ。事前に、基礎だけでも予習しておこうとの美希から の誘いだった。 四つ葉町公園の、いつものダンス練習ステージに四人は集まった。 ピンク、ブルー、イエロー、そしてレッド。一際目立つ真っ赤なダンスウェアが、クローバーを華やかに 彩る。 眩しい日差し、爽やかな風が心地良い。夏特有の命溢れる草木の薫り、生気漲る澄んだ空気が肺の中を満 たしていく。 せつなは目を閉じ、それらを全身で感じ取る。 そして、一言、感慨深くつぶやいた。 「本当に、ここに立つことができたのね」 「ほんとうにって?」 「ラビリンスのイースだった頃、一度だけここで、みんなと一緒に踊る夢を見たの」 「わたしたちと?」 「ええ、ラブも美希もブッキーも。そして、ミユキさんに指導してもらっていた」 静かに、淡々と、感情を込めずにせつなは語る。 それでも、時々声が震えてしまうのは隠すことができなかった。きっと、それは歓喜の震えなんだろう。 ほんと、図々しいわよね。そう、自嘲気味に笑って締めくくった。 みんなも、もう分かっていた。せつなは、ずっと前からみんなの知るせつなであったことを。 そして、もう一つ。一見物静かなせつなの胸の奥には、真っ赤に燃えたぎる情熱の炎があることを。 「さあ、明日までに基本を一つでもマスターして、ミユキさんを驚かせちゃおう!」 「始めはゆっくりでいいからね、せつなちゃん」 「頑張ろうね! せつな」 「ええ、ありがとう。大丈夫よ」 自信を漲らせてせつなが答える。他の何を失敗しても、これだけはモノにしてみせる。 それが、この場にせつなを立たせてくれた、ラブと美希と祈里と、そしてミユキの気持ちに応えることに なるのだから。 スタンドポジションからアティチュード、そしてアラベスク。コントラクションからリリース。 スポンジが水を吸収するかのように、せつなは次々に身に付けていく。 その動作の正確さは、最も美しいと言われる美希すら凌駕した。 「凄いよ、せつな。もうあたしより上手なんじゃ?」 「ラブ……。さすがにそれは問題があると思うわよ」 「あはは、でも、油断したらほんとうに置いていかれちゃいそう」 「ありがとう。ここまでは夢の通りね」 「そうだ! せつなのクローバー加入のお祝いに、ドーナツパーティーしようよ!」 「賛成!」 「いいね、やろうやろう!」 ラブの提案と、美希と祈里の賛成にせつなは目を丸くして驚いた。 ほんとうに、まるっきり同じ。もしかして、これも夢なんじゃないかとほっぺをつねってみた。 生々しい痛みと現実感。それが、涙が出るほどに嬉しかった。頬の痛みのせいにして、そっと目じりを拭 った。 そして、行きましょう! とせつなからラブの腕を引いて走り出した。 何もかも同じ展開なんて癪に障るから。それなら、自分から変えてやろうと思った。うんと、楽しんでや ろうと思った。 それに、最後は違う。絶対に違う。 これは夢ではないのだから。決して、覚めることはないのだから。 せつなは走る。 胸に輝くペンダントは、四つ葉ではないけれど。 もう――――儚く砕けることはない。今も、そしてこれから先も、せつなの幸せを明るく照らしてくれるのだから。 避2-690へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/654.html
「あ……」 耳に飛び込んできた今年最初の蝉の声に、ラブはふと、顔を上げる。 青い空が、頭の上に広がっている。 どこまでも続く、この蒼の下に、けれど彼女はいない。 You, and..... 「夕方6時に、あの場所でね」 母のあゆみとそう約束を交わして、ラブは外に出た。眩い太陽の日差しに、目を細める。 今年も、暑さは厳しそうだ。 一人、ラブは商店街を歩く。 かけられる声に元気よく答え、服屋を覗き、小物屋で迷い、駄菓子屋でおばあちゃんとお話をした。 「今日は、一人なのかい?」 「うーん。まぁ、ね。皆、忙しいみたいだから」 蕎麦屋のお兄さんの問いかけに、ラブは笑って答える。ほら、もう皆、中三だから、と。 「そっか。受験前の夏ってわけだな――――けどそれなら、ラブちゃんはいいのかい?」 「アタシだって頑張ってるよ。けど今日はお休みの日!! たまにはのんびりしないとね」 「はは。ま、ほどほどにな」 そう言ってカブを走らせ行く彼に手を振り、見送った後、 「はぁ……」 ラブは一つ、溜息をついて目を伏せる。 熱く焼けたアスファルトの上を、蟻が列を作って歩いていた。何となくその先を眺めると、 「あらら」 彼女がこぼした駄菓子の粉に群がっている。そういえばよく、もうちょっと綺麗に食べなさい、って言われてたっけ。思い出した後、ポリポリと頬をかいて、 「えい」 ラブは、蟻の列を飛び越した。 ジャンプ!! 公園へと向かったラブは、カオルちゃんのドーナツカフェに顔を出した。 「おう、ラブちゃん!! 新作ドーナツ、試食してくかい?」 「うん!! ありがと、カオルちゃん」 思い切りかじりついたそのドーナツは、甘さの中にほろ苦さが混じっていて。 「これは?」 「コーヒー味」 正確にはコーヒー牛乳っぽい味。おどける彼に、ラブはもう、と笑って見せる。 「うん。美味しいと思うよ。美希たんが好きそうな、大人の味って感じで」 「そりゃ良かった。どうだい、もう一個、食べてくかい?」 「うーん、今日はやめとく」 「お代はいらないよ?」 「あはは、そうじゃなくって」 今日はこの後、家族みんなで食事会だからね。お腹いっぱいにしたらもったいないから。 そう言うと、なるほどね、とカオルちゃんは頷いた後、椅子を引いて彼女に向き合う位置に腰を下ろす。 「で? どうしたのさ」 「なんのこと?」 「元気、ないじゃない」 ぴん、とおでこを指でつつかれて、ラブは苦笑する。 「わかっちゃうんだ、カオルちゃんには」 「多分、みんな、わかってるんじゃない? ラブちゃん、わかりやすいもんね~」 「……そうかな?」 首を傾げて見せるが、カオルちゃんはただ笑うばかり。サングラスの向こうの瞳は、しかしとても優しいものだとわかって。 「美希ちゃんや祈里ちゃんにも言えないことなんでしょ」 「お見通しかぁ」 小さく苦笑して、ラブは視線を公園のステージに向ける。去年の今頃、ラブと美希、祈里の三人が、ダンスを教わっていたそこには、誰もいない。ミユキの姿も。 一応は、高校受験に向けて、ダンスはいったんお休みということになっている。なっているのだが―――― 「美希たんもブッキーも、高校はエスカレーターだから。アタシだけなんだ、受験するのはさ」 「へぇ」 「一番ダンスをやりたいって思って、皆を誘ったのは、アタシなのにね」 言ってから、ラブはテーブルに突っ伏す。 美希タンはモデルのお仕事って言ってたかな。ブッキーは家で、お父さんお母さんのお手伝いしてそう。 けど二人とも、声をかければ、来てくれるだろうな。ミユキさんだって、たまにだけど、レッスンを付けてくれるし。 だから、会えないとか、ダンスが出来ないとかが辛いじゃなくて―――― 「ねぇ、カオルちゃん。聞いてくれる?」 「なんだい?」 「あのね、アタシね――――」 ラブがふと時計を見ると、約束の時間が押し迫っていた。 思っていたよりも、話しこんでしまっていたようだ。 「アタシ、そろそろ行かないと」 立ちあがるラブに、カオルちゃんは優しい目で問いかける。 「吐き出して、少しは楽になったかい」 「うん。ありがと、カオルちゃん、聞いてくれて」 「いいってことよん。また今度、ドーナツ買ってってね」 もちろん。そう頷いて立ち去る彼女の背を見つめながら、彼は小さく呟いた。 「青春だねぇ」 グリル・クローバー。 青々とクローバーの緑が広がる小高い丘の上に、そのレストランはある。 坂道を歩くラブの足は、しかし、重い。 どうしても、思い出してしまうから。 一年前。笑顔と共に、ラブは彼女とこの坂を駆け下りた。 「ゆうごはん♪ ゆうごはん♪ みんなでおうちでゆうごはん♪」 あの時と同じ歌を、小さく口ずさんでみる。いや、歌なんてたいそれたものじゃない。ただの節だ。それでも、あの時は最高にいい歌だと思ったのだけれど――――今は。 「はぁ……」 わかって、いるのだ。 自分の今の元気は、空元気で。 本当は、少し落ち込んでいるのだということを。 こんな風になるなんて、ね。 心の中で、一人、呟く。 キュン、と心臓が締め付けられて痛い。 その症状が出るようになってから、どれぐらいが経つだろう。もう、わからない程、前からだろう。 空を見上げる。 綺麗な夕焼けが見えた。 赤。 彼女の好きな色。 けれどこの空の下に、彼女は――――せつなはいない。 元気に送り出そうと思った。 ラビリンスに幸せを広める。そう言うせつなを、止める理由なんて無かった。 笑顔で、行ってらっしゃい。 きっとまた、会えるから。 アタシはこの街で――――クローバータウンで、せつなを信じて待っているよ。 そう思っていたけれど。 ねぇ、せつな。 時々、お父さん、ケーキのお土産を、四つ買ってきちゃうんだよ。 お母さんはね、せつなの部屋を今でも毎日、掃除してる。勉強道具だって、本だって、そのまま。 アタシはね、アタシは―――― ありふれた言葉だけれど。 いなくなって初めて、せつながアタシをすごく支えてくれてたんだってわかったよ。 せつなに笑顔をもらってたって、わかったよ。 ポトン、と土の地面に雫が落ちた。 それは、ラブの瞳から溢れた―――― 会いたい。 会いたいよ、せつな。 会えないのがこんなに辛いなんて、知らなかった。 信じて待ってるのが、こんなに苦しいなんて、知らなかった。 知ってたら、知ってたらせつなを――――!! ううん。多分、無理だったろうな。 せつなが、自分で選んだ道だもの。自分で決めたことだもの。止められるわけがない。 ――――ああ、お母さんも、こんな気持ちだったのかな。アタシ達が、ラビリンスに行くと決めた時。アタシ達が決めたことを尊重してくれたけれど――――本当は、すごく辛かったんだね。 痛む胸を抑えるようにして、ラブはその場にしゃがみこむ。 涙はボロボロと溢れて、こぼれて。 せつな。せつな。 痛いよ、心が。 せつなが足りなくなってるよ。 今日はね、せつなが家に来ることになってから、ちょうど一年目の日なんだよ。 お父さんもお母さんも、それを覚えてる。忘れてない。だから、今日、皆でお食事をしようって。あのレストランで、桃園家恒例の外食をしようって。 だからかな。すごく、ここにせつながいないことが、辛い。 でもね、平気だよ、せつな。 本当はね、本当は――――こんな風に、何度も泣いちゃったことがあるんだ。 けれどね、その度に、せつなの笑顔を思い出すの。きっと、今も、笑顔だって信じてる。 その笑顔に励まされて、アタシは頑張ってる。頑張れる。 だから――――平気だよ、せつな。 泣くのは、ほんのちょっと――――ほんのちょっとの間だけだから―――― 「ラブ?」 不意に聞こえてきた声は、ラブを驚かせるのに十分なものだった。 「ラブ――――泣いてるの?」 心配そうにする少女。彼女は、ゆっくりと振り向いた。 真っ赤な太陽を背に受けて、その姿はシルエットで――――けれど、すぐに目が慣れていく。 そこにいたのは――――夕日と同じ、赤の服を身にまとっていたのは。 「せつ、な――――?」 東せつな、その人だった。 この数か月で、ラビリンスの復興もだいぶ進んでね。といっても、つい最近までバタバタしてて、こっちに来れる余裕なんて無かったんだけど。ようやくちょっと落ち着いたから、久しぶりにこっちに来てみようかな、って―――― 「って、ラブ!?」 彼女が、何か色々と説明していたような気がした。したが、ラブには聞こえていなかった。 ただ、せつなの存在しか、その心の中にはなかったから。 ようやく、彼女が本物だとわかった以上――――次にすることは、決まっている、それは。 抱きしめること。 「せつなぁ」 ギュッ、と強くしがみついてくる彼女に、最初は戸惑っていたせつなも、やがてその顔に笑みを浮かべ、 「はいはい。相変わらず、泣き虫ね」 そっと彼女の髪を撫でたのだった。 「せつな、また、戻っちゃうの?」 「うん。けど、一週間ぐらいはこっちにいようかな、って思ってる」 「そっか、良かった!!」 「で、ラブがここにいるってことは、今日はあの日なんでしょ?」 「うん!! 桃園家恒例の外食デーだよ!!」 「ね、ラブ」 「なぁに、せつな?」 「私――――まだ、桃園家の一員、よね?」 「あったりまえじゃない!! せつなは、アタシ達の家族だよっ!!」 「家族――――嬉しい」 「うん、アタシも嬉しい!! えへへ、せぇつな!!」 「なによ、ラブ」 「お父さんよりも、お母さんよりも先に……一番に、言っちゃうね!!」 お帰りなさい!!
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/460.html
「どう、して・・・・・・」 「ここは騒がしいわ。後で会いましょう」 震える声で尋ねるせつなに、彼女は――――北那由他ことノーザは、猫撫で声で囁き、そして笑う。だがその目は、 大きな口が浮かべる笑みとは裏腹に、冷たく凍りついたもので。 「話す、ことなんて・・・・・・」 「お母さん――――なのよね?」 それでも、せつなは必死に拒絶しようとする。が、那由他が漏らした言葉と、その視線の向かう先に、彼女は凍り付い て。 「お母さんに、何をするつもり!!」 危険な光を宿らせる那由他の瞳から、あゆみの姿を隠すようにしながら、せつなは腰に付けたポーチに手を伸ばす。 その中には、彼女がプリキュアに変身する為のアイテム、リンクルンが入っている。 「何にも、するつもりはないわ――――貴方が来てくれるなら」 「――――っ!!」 戦意の無さを示すかのように、彼女は両手を大きく広げる。が、それでもせつなは、構えを解かず、那由他のことを 睨み付ける。 「大丈夫よ。少しお話がしたいだけ――――それだけよ」 「――――本当に、それだけでしょうね」 低く抑えた声で答えるせつなに、那由他は薄く笑い、頷いた。 「ええ、約束するわ――――それじゃ、待っているわ。占いの館で、ね」 そして彼女は、踵を返して去って行く――――その足元で、街路樹の根元に咲いた花が腐り、枯れていって。 ギュッ、とせつなは拳を握る。罠だ。そう思う気持ちがある。だが―――― 「せっちゃん。どうかした?」 かけられた声に振り返ると、彼女が来ないことを不思議に思ったのだろうか、あゆみがすぐ側に戻ってきていて。 「ううん、なんでもないわ、お母さん」 だが――――お母さんを、危険に晒すわけにはいかない。絶対に。 それはせつなにとって、絶対の想い。だから、決める。 例え罠であったとしても、行かなければならない、と。 されど少女は 思いを振り切りて 変だ。 ラブは、思う。 せつなが、変だ。 思いながら、リビングのテレビの前にぼんやりと座る彼女の横顔を、じっと見つめる。 さっき、お母さんと三人で買い物に行って帰ってきてから、なんだか上の空で過ごしている。話しかけても生返事だし、 ちらちらとお母さんを眺めては、じっと何かを考えているような素振りをしている。 一体、どうしたんだろう。思って、彼女は問いかける。 「せつな?」 「ん? なぁに、ラブ」 「あのさ――――何かあった?」 いつものように、問いかける。 せつなは少し、気持ちを抑えてしまうところがある。あゆみにも気付かれていたように、傍目にもわかるほど、無理を してしまう時がある。 だからラブは、せつなの顔に影が浮かんだ時、素直にそう尋ねることにしていた。 「え――――?」 その問いかけに、一瞬、彼女は驚いた顔をして、やがて微かに首を横に振って笑う。 「大丈夫よ。何でもないわ」 「・・・・・・そう」 ラブは言って、微かに視線を落とす。 その答えは、ある程度、予測していたもの。無理をしている上に、それを素直に認めようとしない時のせつなの、 お決まりの言葉。 少し、悲しくなる。何でもないこと、ないんじゃないの。そう言いたいけれど、そう聞くことを拒絶されているようで。 せつなが、遠く感じられる。 けれども。 「何でもないならいいけれど――――何かあったら、ちゃんとアタシに言ってね」 ラブは顔を上げ、せつなの目を真っ直ぐに見て、優しく言った。 大丈夫。せつながそう言っているなら、それを信じよう。そう思いながら。 二人にとっては、それも、いつものことだったから。 彼女は、ラブの言葉に少し笑って、頷いて。 「ええ。わかったわ――――ありがと、ラブ」 言うと、部屋に戻るわね、と言い置いて彼女は二階へと向かった。その姿を、ラブはもやもやとした気分で見送る。 いつものこと――――だよね。 心の中で、一人ごちる。 せつながいつものように、ちょっとだけ無理をしていて。ちょっとだけ困ってて。けれど、大丈夫って言っているんだから ――――信じていいんだよね。 思ってみても、何故か。 落ち着かない。心がざわついている。一言で言えば、嫌な予感。 「あら。せっちゃんは?」 「え?」 台所から出てきたあゆみが、そこにラブしかいないことに気付いて、キョトンとする。 「ああ、せつななら、部屋に戻ったよ」 「あら。せっかくおやつを出そうと思ったのに。さっき買ってきたアイスだけど」 「アタシ、呼んでくるよ」 お盆を持って困った顔をする母親の言葉に、ラブはソファから立ち上がる。 アイスは、せつなが選んだお気に入りの一品。これを食べれば、せつなも元気になるよね。 思いながら階段を上がり、彼女の部屋のドアをノックする。 「せつなー。おやつだよー。さっき買ったばっかりの、アイスだよー」 呼びかけに、だが、返事はない。 微かな不安に襲われて、ラブはドアノブを回し、扉を開ける。 「せつな――――?」 部屋の中には、誰も、いなかった。 赤い光が弾けると共に現れたせつなは、器用に地面に着地する。最初の頃は失敗もあったアカルンの使い方にも、 さすがに慣れてきていた。 目の前に聳えるのは、占いの館。かつて、せつながイースとして暮らしていた場所。ラビリンスのアジト。 ここに来るのは、久しぶりだった。 プリキュアとなってからは、この場所を避けてきた。ラビリンスの手先だった頃――――つまり、イースだった頃を、 思い出してしまうから。 そしてそれを、ラブ達も気付いていたのだろう。せつなに、この場所のことを尋ねるようなことをしなかった。 本来であれば、敵の本拠地が分かったなら、攻め込んでもいい筈なのだ。実際、美希と祈里がここに来ようとして いたと聞いている。その時は、ここに至ることが出来なかったらしいが、おそらくそれは館の周りの木々によってカモ フラージュされていた為だろう。 だから、ここの正確な位置を知っているせつながキュアパッションとなったのなら、館に辿り着くことだって出来る筈 なのだ。 それでも、彼女達は、ここに攻め込もうとはしない。 一度、その理由を美希に聞いたことがある。すると彼女は、 「あら。あたし達の目的は、シフォンや皆を守ることだもの。こっちから攻め込む必要なんてないわ」 笑いながら、そう答えた。 それは、半分は本当だろう。プリキュアは、あくまでも守護者。イースのような兵士ではないのだ。 けれど、残りの半分は。 「だからね、せつな。思い出す必要なんて、無いんだからね」 慈しむように、美希はそう続ける。 残りの半分は、せつなのことを思いやっているから。彼女の心の古傷に、触れない為に。 甘い、とせつなは思う。少女達は、甘すぎる、と。それは、彼女に残された、兵士としての考え方。 だけど、その甘さが、せつなを救ってくれたのだ。そう思うと、ただ、感謝するしかなくて。 なのに。 せつなは唇を噛む。 皆に気遣われていたというのに、私は今、ここにいる。再び、占いの館に。 肩に入った力を抜くように、大きく深呼吸をして、せつなはきっと背筋を伸ばし、扉に手を触れる。 私は、東せつな。キュアパッション。イースじゃない。 最後に、確かめるようにそう、自分に言い聞かせながら。 7-135へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1067.html
【10月11日】 『四つ葉町大運動会』 クローバー「今日は、体育の日!」 ラブ 「四つ葉町の運動会で、パン食い競争に出場するんだ!」 美希 「パン食い競争って辺りがラブらしいわねぇ」 ラブ 「えへへ、それほどでも」 美希 「誉めてないわよ……」 ラブ 「でも、どのパンにしようか迷っちゃうなぁ~」 祈里 「ラブちゃん、パン食い競争ってそういうものじゃないと思う……」 ラブ 「せつなの分も取ってきてあげるね!」 せつな「いらないから、恥かかせないで!」 【10月12日】 『半分コ』 ミユキ「うふふ、家ではわたし、いっつも大輔とドーナツの取り合いなのよ」 ラブ 「姉弟でおやつの取り合いか~。あたしとせつなはいつも半分コだし」 美希 「アタシも弟いるけど、むしろ、紅茶用意してどうぞってタイプだしね」 祈里 「わたしも一人っ子だから、そういうのわからない」 せつな「でも、ミユキさんが大輔君のこと話す時、なんだか楽しそう」 ミユキ「そうね、あんな弟でも可愛いとこあるのよ。取り合いだって楽しいし」 ラブ 「おやつの取り合いは、“おやつ”じゃなくて、“食べたい気持ち”の半分コなんですね!」 【10月13日】 『この日のために』 祈里「今日、退院する猫ちゃんのお見送りをするの。元気になって、本当に良かった!」 正 「祈里、ご苦労だったな。徹夜で看病してくれた日もあった。心配だったろうし、疲れただろう」 祈里「ううん、平気よ。必ず良くなるって、わたし信じてたから」 正 「そうだな。希望を持てば、病の回復も早くなる。そのためには、私たちがまず信じることだ」 祈里「飼い主さんと猫ちゃんの喜ぶ姿。ほんの一瞬のことだけど、その一瞬のために、わたしはずっと頑張ろうと思うの」 【10月14日】 『通りすがりの隼人さん』 ウエスター「山で、“ヤッホ~”って言うと向こうで誰かが“ヤッホ~”って言うんだ。あれは一体、誰なんだ?」 せつな 「誰かが助けを求めてるのかもしれない。ウエスター、行って見てきて!」 ウエスター「向かいの山なんだが……」 ラブ 「いや、せつな、あれはね……」 せつな 「ラブは黙ってて! 変身後の能力を使えばいけるでしょ?」 ウエスター「わかった。待ってろよ!」 美希 「あ~あ、行っちゃった……」 せつな 「どうせすぐ追いついてくるわよ」 ラ・祈・美『確かに……』 せつな 「沖縄の時といい、どうやって私たちを見つけてるのかしら?」 【10月15日】 『お泊まり日なんです』 ラブ 「今日は美味しいハンバーグだよ! ニンジンもちゃんと食べま~す!」 せつな「本当かしら? また私に泣きつくんじゃないでしょうね」 ラブ 「たはは……なるべく努力します……」 美希 「アタシも野菜中心だけど、ニンジン嫌いの克服は大変だったわね」 せつな「人参は食べやすい方でしょ? ピーマンって何であんなに苦いのかしら?」 祈里 「果物は、食べられることで種を遠くに運ぶのよ。野菜は、食べられたら困るからかな?」 せつな「なるほど、それで果物は甘く、野菜は苦くなったのね」 あゆみ「そして、あなたたちは、健康のために全て残さず食べるのよ」 四人 『ハーイ!!!!』 【10月16日】 『親と子』 美希 「今日はオシャレして、ママと一緒にコンサートに行くのよ」 祈里 「レミおばさんは業界に知り合いも多そうだし、チケット優先的に取れたりするのかな?」 美希 「うん、本当はVIP席も取れるんだけど、ズルはしてないわよ」 せつな「ブッキーはお父さんが獣医さん。美希もお母さんに色々影響受けてるのね」 ラブ 「どうしたの、せつな?」 せつな「親子って、似るのは容姿だけじゃないのね。夢とか生き方まで受け継いでいけるのなら……」 せつな「私にも、継げるものがあるのかなって。ふと、そう思ったのよ」 【10月17日】 『希望は努力と共にある』 キュアベリー「悪いの・悪いの・飛んで行け! プリキュア・エスポワール・シャワー・フレッーシュ!!」 せつな「エスポワールとは、フランス語で希望って意味よね」 美希 「ええ、降り注ぐ希望って意味なの」 せつな「でも、なかなかブルンが出てこなくて、絶望しかけたって聞いたわ」 美希 「ぐっ……、希望は最後まで失ってはならないって教訓だったのよ」 せつな「通用しそうもなくて、投げ出したこともあったのよね」 美希 「それは囮! 希望に向った行動よ」 せつな「美希を見ていると、私も強く生きようって思えるの」 美希 「喜んでいいのかしら……」 【10月18日】 『秋の読書交流会』 サウラー 「秋は物静かで、本好きの僕にピッタリの季節だね」 ウエスター 「お前は年中そうじゃないか、少しは外に出て人と話してみてはどうなんだ?」 サウラー 「面倒ごとはゴメンだね。僕は一人がいいんだ」 ウエスター 「……というわけなんだ、困った奴だ」 カオルちゃん「いいんじゃない? 本もまた人が書いたもの、読書も交流のうちってね」 タルト 「なるほど、そんな考え方もあるんか。でも、心のやりとりにはならへんなあ……」 カオルちゃん「はい、差し入れ。今から館に行って、お勧めの本の話でも聞いてくるといいよ」 タルト 「お~っ、さっすが兄弟!」 ウエスター 「持つべきものはドーナツ仲間だな。ありがたく頂こう!」 【10月19日】 『今日の、この出来事も忘れない』 タルト「わい、木登りするの得意なんや。ええ眺めやで~」 ラブ 「ホントだ。遠くまで見渡せて気持ちい~ねっ!」 タルト「せやろ? とっておきの場所なんや。……って! なんでピーチはんがここに!?」 ラブ 「えへへ、あたしも小さい頃はよく木登りしてたんだ。このくらい平気だよ」 タルト「小さい頃か~。もっと大きなったら、忘れていく景色なんやろうなあ」 ラブ 「忘れないよ。思い出すことは少なくなるとしても。全部、あたしの大切な記憶なんだから」 【10月20日】 『ハイキングの楽しみ方』 祈里 「今日は学校で遠足に行くの。山でどんな動物に会えるかしら?」 お友達「祈里らしいね。普通はハイキングって、四季折々の風景を楽しむものでしょ」 お友達「そうそう、深緑や雪景色、今なら紅葉よね。楽しみだな~」 祈里 「もちろん山の風景も楽しみよ。でも、そこで暮らす命を感じてこそ、景色もより綺麗に見えるんだと思うの」 新-506へ